CSCAP国際運営委員会・総会 (中山 俊宏)

 去る12月2日から4日、ソウルにおいてCSCAP(アジア太平洋安全保障協力会議)の第12回国際運営委員会と第2回総会が開催された。CSCAPは1994年6月に発足して以来、域内の各国・地域の有識者、実務経験者、政府当局者が個人の資格で参加し、地域の多様な安全保障問題や信頼醸成のあり方について「トラックII」の利点を活かし、自由な立場から活発な議論や研究を進める国際機構として、これまでもASEAN地域フォーラム(ARF)など政府間の安全保障対話の場に積極的な提言や知的協力を行ってきている。特に近年においては再び国際社会において緊急の課題となりつつある予防外交を積極的に取りあげ、現在アジア太平洋地域に適合的な同概念の構築を試みているARFからも高い評価を得ている。

 CSCAPは年2回開催される国際運営委員会や随時開催される作業部会に加え、総会が2年に1回開催されることとなっており、ソウルにおける今次開催は1997年6月のシンガポールにおける第1回総会に引き続き、第2回目の開催となった。冷戦後一気にモメンタムの高まったアジア太平洋地域における多国間安全保障協議は、1998年のアジア経済危機を経て、立ちあげ当初の期待とは裏腹に若干停滞気味の感があることは否めないなか、今次総会においては、CSCAPの今後の役割とそのすすむべき方向性につき積極的な意見が取り交わされた。

 本総会には北朝鮮とカナダを除く全CSCAPメンバー国が参加し、日本からは松永信雄CSCAP日本委員会委員長(当研究所副会長)とともにゲスト・スピーカーとして加藤良三・外務省外務審議官、西原正・防衛大学校教授が参加し、CSCAP日本委事務局からは小澤俊朗・事務局長(当研究所所長代行)、菊池努・青山学院大学教授(当研究所客員研究員)および筆者が同行した。ほかに外務省より辻優・安全保障政策課長、實生泰介・同課課長補佐がオブザーバーとして参加した。

 総会ではまずキム・ダルチュンCSCAP韓国委員会委員長より、アジア地域が経済危機で受けたダメージから回復しつつあり、多国間で安全保障問題につき協議することの重要性がますます高まるなか本総会を開催することの意義を語る開会の辞があった。続いて行われた討議は四つのセッションに分かれ、それぞれ「アジア太平洋地域における多国間安全保障協力」、「新世紀における新たな安全保障上の挑戦」、「新たな地域安全保障協力をもとめて:東ティモールとその後」、「21世紀にのぞむCSCAP」のテーマの下、基調報告者の報告に引き続き参加者も含めた活発なやりとりが行われた。

 第1セッションにおいては、1994年以来の域内安全保障協力の成果と問題点が協議されたが、作業部会にオブザーバー資格で参加する台湾の役割の評価をめぐって参加者の間で見解の相違が表明される場面があった。第2セッションにおいては、加藤外務審議官が基調報告を行い、「地域的な世論」の形成の役割を担う「トラックII外交」の役割が強調され、メンバーの普遍性からCSCAPへの期待は特に大きい旨の見解が表明された。 第3セッションにおいては、ケント・カルダー駐日米国大使特別補佐官が基調報告を行い、アジア太平洋地域においても他の地域同様、従来のリアリスト・パラダイムの修正が要請されているが、依然として2国間の同盟関係が同地域の礎石であり、そうであるからこそ「トラックII」の柔軟性の果たしうる役割が大きいとの期待感が表明された。 同セッションに参加した西原教授は、国際的な介入が提起する問題を迂回して予防外交の議論をすすめようとしていくことには限界があり、東ティモール問題について全く役割を果たせなかったARFの活動を活性化させる方策を探るべきだと発言し、これが有益な議論を引き起こした。最終セッションにおいては、現在CSCAP共同議長を務めるハン・スンジュ元韓国外相とキャロライナ・ヘルナンデスCSCAPフィリピン委員長(フィリピン大学教授)を中心に、今後のCSCAPの活動の方向性につき協議が行われた。同セッションにおいて松永委員長は、安全保障に関する議論は外交政策の中核をなす部分であり、政府当局者の参加がのぞましく、それができない場合にもCSCAPにおける協議内容を政府当局者に明確に伝達する必要性が強調され、今後総会の場を政府当局者にCSCAPの活動内容を紹介する場としてより積極的に活用すべきであるとの意見が表明された。

 今次総会はCSCAPのこれまでの活動が非常に有益なものであったとの共有認識が確認された一方、ARFという「トラックI」の協議がゆっくりとではあるが進むなか、「トラックII」の利点を活かしそれを政策に反映させていくことの困難性が確認された場でもあった。設立から一定の時間が経過するなか、過大な期待を避けつつ、CSCAPが現実に貢献しうる役割を再検討する時期を迎えたとの印象を参加者の多くが抱いた会合であったことは疑いない。

(アメリカ研究センター研究員)

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