コラム

韓国大統領選に向けた候補者選出の動向

2007-08-29
宮本 悟(研究員)
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韓国では、2007年12月19日に大統領選挙が実施される。韓国の大統領は5年任期で重任禁止であるため、盧武鉉大統領が続投することはあり得ない。2008年3月1日には、別の人物が大統領に就任することになる。2007年4月23日から大統領選挙の予備候補者登録は始まっており、8月現在、大統領選挙に向けての政界再編や候補者選出の動きが活発である。政界再編を経た各政党で予備選挙を実施して党公認候補者を選んだ後、11月25日から26日まで大統領選挙候補者の登録申請が実施され、登録申請を済ませた候補者はいよいよ大統領選挙に臨むことになる。


韓国大統領選挙の対立構図で重要なのは、野党圏(保守)と与党圏(進歩)の違いである。野党圏とは、韓国の東南地域にある慶尚道(嶺南)を支持基盤としてきた各政党である。現在、野党圏の政党は、ハンナラ党である。与党圏とは、韓国の西南地域にある全羅道(湖南)を支持基盤としてきた各政党のことである。現在、与党圏には、大統合民主新党と民主党が存在する。国会議員が、ある党圏から別の党圏に所属を変えることは少ない。この各党圏による支持基盤での得票格差(地域主義)が、1987年の民主化以来、韓国の選挙に最も大きな影響を与えてきた要因である。おそらく、それは今回の大統領選挙でも変わらないであろう。


野党圏と与党圏は、単一候補を出した方が、大統領選挙で有利となる。韓国の大統領選挙は単純直接選挙制であるため、たとえ30%しか得票できなくても、最多得票を得た候補者が当選する。そのため、野党圏も与党圏も、得票が割れないように、候補者を一人に絞り込めば有利となる。従って、単一候補を選出できるか否かが、大統領選挙の行方を知る上で重要な鍵となる。以下、現在の野党圏と与党圏における候補者選出の状況を見てみたい。


野党圏であるハンナラ党は、1997年11月21日に新韓国党と民主党が合併して成立した政党である。2006年2月20日に自由民主連合(自民連)を合併して、現在に至っている。現在、ハンナラ党は国会第二党である(129議席)。ハンナラ党は、党公認候補を選ぶための予備選挙の投票を8月19日に実施し、20日の開票の結果、前ハンナラ党代表最高委員である朴槿恵(パク・クネ)は破れ、前ソウル市長である李明博(イ・ミョンバク)が選ばれた。現段階では野党圏は単一候補の選出に成功したといえる。


与党圏である大統合民主新党は、盧武鉉大統領の支持政党であったヨルリン・ウリ党を離党した議員を中心にして2007年8月5日に結成された。中道統合民主党とウリ党が結成に合流しなかったため、この時点では与党圏は3党に分かれていた。しかし、ウリ党は、8月10日に大統合民主新党との合併を宣言し、18日の臨時全国代議員大会での決議を経て、20日に大統合民主新党に合併されて、事実上解散した。ウリ党を合併した大統合民主新党は、現在、国会第一党である(143議席)。大統合民主新党では、10月14日に予備選挙が実施され、候補者が指名される予定である。


同じく与党圏である民主党は、金大中政権下で与党であった新政治国民会議が改編され、2000年1月20日に新千年民主党として成立した。しかし、盧武鉉政権下で2003年11月11日に新千年民主党を離党した議員が中心になってウリ党を成立させると、弱体化が始まり、2005年5月6日には党名を民主党に改名した。ウリ党を離党した議員達が2007年5月7日に中道改革統合新党を創設すると、6月27日に民主党は中道改革統合新党と合併し、中道統合民主党になった。しかし、ウリ党出身者が中道統合民主党を離党すると、8月13日に民主党に再び改名した。現在、国会第三党である(9議席)。民主党は、10月8日に党公認候補を選ぶための予備選挙を実施する予定である。



朴槿恵が予備選挙の結果を受け入れて李明博の支持を表明したことで、野党圏の候補が割れる可能性はかなり低くなった。野党圏が単一候補を出してきたため、与党圏も対抗上、単一候補を出すことが望ましい。でなければ、支持基盤である全羅道の票が複数の候補に割れることもあり得るため、選挙に不利である。単一候補を選ぶとすれば、小政党である民主党よりも大統合民主新党の候補者になる可能性が高いであろう。現時点で、大統合民主新党の党公認候補者として選ばれる可能性が最も高いと考えられるのは、現在、与党圏の候補者達の中で最も国民の支持率が高い孫鶴圭(ソン・ハッキュ)前京畿道知事である。なお、与党圏で最も人気が高かった元国務総理である高建(コ・ゴン)は、1月16日に大統領選挙に出馬しないことを宣言した。孫鶴圭は、もともとハンナラ党員として大統領選への出馬意思を表明していたが、3月19日にハンナラ党を離党して、大統合民主新党を結成した中心人物の一人となった。孫鶴圭が、実際に大統合民主新党の公認候補者として選出され、与党圏の単一候補者になれるかはまだ分からないが、大統領選挙までに与党圏が候補者を一人に絞り込むことができるかが、選挙の行方を知る上で重要となってくることは間違いないであろう。




図1 2007年5月から8月までの政界再編の流れ(青:野党圏 赤:与党圏)
 


※ なお、韓国国会には、与党圏や野党圏に関係ない民主労働党(9議席)や国民中心党(5議席)などの政党が存在する。それらの政党も候補者を出すであろうが、彼らが大統領選挙で当選する可能性はほぼ皆無である。ただし、国民中心党が候補者を出さずに、野党圏を支持する可能性はある。