JIIA国際フォーラム
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「イラクをどうするかPart2−その問題と日本の対応−」

2003年2月19日、当研究所大会議室において標記座談会が開催された。パネリストは、池田明史・東洋英和女学院大学教授、小田部陽一・外務省総合外交政策局審議官、定森大治・朝日新聞論説委員、森本敏・拓殖大学教授、モデレーターは重家俊範・当研究所主任研究員が務めた。メディア、商社、防衛庁などから40名を超える参加者を得て、様々な角度から多くの意見が述べられた。以下、断片的ながら、議論の一部をまとめた。

1、イラク問題の現状に関する問題点は、査察の結果をどう評価するか、今後の査察をどうするか、今後の時間的枠組をどうするかの3点にある。先の査察報告は予想よりも中立的であったが、それがゆえにイラクの姿勢が協力的であるか否かについては、解釈の余地を残すものとなった。今後は査察強化が打ち出されるであろうが、それが有効かどうかはイラク次第となる。事態がこのまま推移すれば、2月末か3月初めに次の査察報告がなされ、それが最後の報告になろう。その後は安保理において、大量破壊兵器拡散防止のために国際社会が一体性を示すような、新たな決議案の審議に入ることになるのではないか。しかし、米英案に仏が妥協するのか、仏が別の決議案を用意したらどうなるかなど、情勢は流動的で、見通しを立てられるような状況にはない。その一方で、決議の成立如何に関わらず、武力行使が開始される可能性も高い。3月末には米軍20万、英軍5万程度の兵力が配備を終えていよう。武力行使が行なわれれば、その終了後に日本は復興支援を行なうことになる。現時点では、国際機関の要請に応じた難民・避難民の救済、ヨルダン・トルコなどの周辺国支援が想定されるが、イラク国内の復興に関しては、実際の戦闘とその被害、国内の政治体制や状況などの不確定要素が大きすぎて、具体的な方策は立案できない。

2、地域情勢については、中東諸国の多くは政府レベルでは緊密な対米関係を維持せざるを得ないが、社会レベルでは反米的な国民感情が強いという構造的な問題を抱えている。そのため、各国政府はその対米姿勢が民衆による政府批判につながらないよう、腐心している。その典型がトルコであり、今月に入って米軍の展開への協力を決定するまで、トルコ政府は限界までその対応を引き延ばした。また、クルドやシーア派を抱えるイラクは、求心力よりも遠心力の方が強い国であり、新体制の見通しがない状況では、エスニック集団が周辺に拡大する懸念が強い。さらに、武力行使後にイラクに民主的な政体が確立されれば、米国の保守勢力によるサウジアラビアへの民主化批判が高まる。しかし同時に、武力行使直前という現在の状況がこのまま続くということも、その緊張に何ヶ月も耐えられないという意味で、別の深刻な問題となる。一方、現在組閣作業中のイスラエルでは、シャロン首相が挙国一致内閣を目指しており、労働党引き込みのために非常事態が生じることを期待していよう。パレスチナのアラファト議長も同じく、現在の民主化や制度改善の要求を一時的にでもそらし、自らへの求心力を高めるため、イラクへの武力行使開始を期待していよう。

3、イラク問題に関わる米欧対立については、パブリック・ディプロマシーとか世論とか呼ばれるものを、政策に反映させるべきか否かという問題が大きい。これは、「反戦はイラクに利する」という論理ではすまない問題である。また、欧州ではイスラムとの共存がより切実な問題であること、NATOの主体性(米の付属品ではない)、ブッシュ・ドクトリン(先制攻撃ドクトリン)を現状では受け入れられないことなども、米欧対立の背景にある。さらに、仏の対応はシラク大統領に起因するような性質のものではなく、米へのカウンター・バランスとしての存在を世界にアピールすることによって得られる長期的な利益や、米の各地域での権益拡大に歯止めをかけ、仏の権益を確保するためのものであると考えられる。それは、米のユニラテラリズムへの対抗という側面と、仏の独善という側面の双方を有している。

4、イラク問題とその後が国際政治に与えるインプリケーションは、おそらく深刻なものとなる。それは、対外的脅威を共有しないなかでの「同盟」とは何かという問題を喚起するものであり、傷ついた同盟関係の建て直しや米のリーダーシップの維持に、大きな課題を残す。また、在外駐留米軍の削減を含めた米の「転換戦略」は、イラク問題のあとでどのような展開を見せるのか。北朝鮮問題について、米の武力行使をしないという政策に変更はあるのか。これらの問題の推移は、イラクへの武力行使とフセイン政権の転覆が、短期間で混乱なく終了するのか、長期にわたって混乱を続けるのかによって、決定的に左右される。(松本弘)