パネル・ディスカッション 「イラクをどうするか―その問題と日本の対応―」
10月10日、当研究所大会議室において、標記パネル・ディスカッションが行なわれた。 パネリストは森本敏・拓殖大学教授、酒井啓子・JETROアジア経済研究所主任研究員、畑中美樹・国際開発センター・エネルギー環境室長、小田部陽一・外務省総合政策局審議官、モデレーターは当研究所の重家俊範主任研究員が務めた。 各省庁、民間企業、学者、ジャーナリストなど35名の参加を得て、各パネリストの発言の後、活発な質疑応答や議論がなされた。その概略を以下に紹介する。
1. 大量破壊兵器の問題や安保理決議違反などを考えれば、これは米国の問題ではなくイラクの問題であり、国際社会対イラクという構図であるとの意見があったが、他方で議論はやはり米国対イラクという構図の下で、米国の攻撃や攻撃後のイラク新政権についての意見が大半を占めた。 2. 米国は、9.11事件によって冷戦後の脅威がテロと大量破壊兵器の結び付きであると明確に認識し、固い決意に基づいてイラク攻撃を行なおうとしている。 3. 諜報活動やハイテク兵器により、攻撃は短期間で終わることもありうる。 4. 戦費に関わる財政負担や攻撃による石油市場の混乱も、世界市場の規模や傾向(499万B/Dの余剰生産能力がある)から見て、余剰生産能力の破壊でもない限り、影響は限定的ではないかと思われる。 5. 最大の問題は、フセイン打倒後のイラク新政権樹立に、まったく目途が立っていないことである。イラク国内にも国外にも代替勢力は存在せず、現在の政権内部やその支持勢力(閣僚の一部、テクノクラート、軍部、アラブ・スンナ派住民)が攻撃に際して現政権に付くのか、反フセインとなるのかが、ポイントとなろう。
以上の見解に対し、イラクがイスラエルやサウジアラビアを攻撃する、地上戦において生物・化学兵器を使用する、バクダッド市街戦やクルド自治区で「人間の盾」が使われる、対イラク攻撃とタイミングを合わせたテロが世界各地で行なわれる、停戦交渉は誰と行なわれるのかといった懸念も示された。(松本弘)
パネリスト略歴
森本 敏(もりもと さとし) |
1941年生まれ。防衛大学理工学部卒業後、防衛庁入省。昭和54年外務省入省後、在米日本国大使館一等書記官、情報調査局安全保障政策室長など、一貫して安全保障の実務を担当。平成4年より野村総合研究所主席研究員(平成13年退職)。平成12年より拓殖大学国際開発学部教授、PHP総合研究所主席研究員。専門は安全保障、軍備管理、防衛問題、国際政治。 |
<主な著作> |
『戦略的日本外交のすすめ』(共著、時事通信社、平成10年2月)、『「極東有事」で日本は何ができるのか−ガイドラインと有事法制』(単著、PHP研究所、平成11年)、『安全保障論』(単著、PHP研究所、平成12年)、『ミサイル防衛 新しい国家安全保障の構図』(編著、日本国際問題研究所、平成14年4月)、『国のこころ国のかたち』(共著、産経新聞社、平成14年4月) |
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酒井 啓子(さかい けいこ) |
1959年生まれ。東京大学教養学部教養学科卒。英ダーラム大学(中東イスラーム研究センター)修士。1982年、アジア経済研究所入所(動向分析部)。1986年−89年、在イラク日本国大使館専門調査員。1995-97年 在カイロ海外調査員(カイロ・アメリカン大学)。2002年より地域研究第2部主任研究員。 |
<主な著作> |
"Japan-Iraq relations ? the perception gap and its influence on diplomatic policies" (Arab studies quarterly: 23(4)2001, Fall ) 、『徹底討論 アメリカはなぜ狙われたのか−同時多発テロ事件の底流を探る−』(NHKイスラムプロジェクト(共著)、岩波ブックレット、2002年3月)、『イラクとアメリカ』(単著、岩波新書796, 2002年8月)) |
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畑中 美樹 (はたなか よしき) |
1950年生まれ。1974年慶応大学経済学部卒業。同年富士銀行入行。80年同行調査部詰、(財)中東経済研究所出向。83年富士銀行復職後、同行退職。(財)中東経済研究所入所。90年同所カイロ事務所長、主任研究員を経て同所退職。(財)国際経済研究所次席研究員、97年主席研究員。世界銀行短期コンサルタントなどを経て、2000年より(財)国際開発センター エネルギー・環境室長。 |
<主な著作> |
『中東開発』(共著:名著出版、1998年)、 Aid Effectiveness in the West Bank and Gaza, Undertaken by The Government of Japan and The World Bank, June 2000、平成12年度中東産油国投資促進事業 中東産油国IT産業動向調査報告書(中東協力センター、国際開発センター2001年3月) |
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小田部 陽一(おたべ よういち) |
1950年生まれ。昭和49年一橋大学法学部中退後、外務省入省。OECD日本政府代表部一等書記官、経済局国際機関第ニ課長、総合外交政策局企画課長、在アメリカ合衆国日本大使館公使、在大韓民国日本大使館公使、経済局審議官を経て、平成14年3月より総合外交政策局審議官。 |
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