朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発問題をめぐり、多国間協議が開催される可能性が高まっている。2003年4月12日、北朝鮮外務省スポークスマンは、「核問題を平和的に解決するためには、その当事者である朝米間で直接会談が開かれなければならない」としながらも、「万一、米国が核問題解決のために対朝鮮政策を大胆に転換する用意があるなら、われわれは対話形式にはさほどこだわらない」と多国間協議に応じる姿勢を示唆した。
このような北朝鮮の多国間協議に対する柔軟な姿勢を見せる一つの大きな契機として、イラクの首都バクダット陥落による戦争早期終結の可能性が高まったことが挙げられる。ブッシュ大統領によって「悪の枢軸国」の一つとして名指しされた北朝鮮が、イラクの独裁政権崩壊を目の当たりにして、「イラクの次は北朝鮮か」という焦燥感に駆られることになったのは想像に難くない。
2002年10月、ケリー米国政府国務次官補が北朝鮮を訪問した際の、北朝鮮によるウラン濃縮計画の存在が発覚したことによって、1994年10月にジュネーブで調印された「米朝枠組み合意」(US-DPRK Agreed Framework)の基盤は事実上崩壊した。これにより、日米韓3国、EU各国、および9カ国の一般メンバー国(フィンランド、ニュージーランド、オーストラリア、カナダ、インドネシア、チリ、アルゼンティン、ポーランド、チェコ)で構成されるKEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)による、対北朝鮮軽水炉建設や代替エネルギーの供与等一連のプロジェクトは事実上暗礁に乗り上げた。
米朝枠組み合意の崩壊後、北朝鮮は核問題について米朝2国間で交渉を行うべきだと主張してきた。これに対して、アメリカは多国間協議による話し合いをあくまでも主張してきた。2003年3月6日、ブッシュ大統領はホワイトハウスの記者会見において、北朝鮮の核開発問題を多国間の枠組みの外交努力によって解決すべきであると発言した。さらに、これに関して2003年3月26日、ケリー国務次官補は米国議会上院外交委員会において証言を行い、北朝鮮が核問題について米朝2カ国間で話し合いをすべきであるという従来の姿勢を軟化させ、多国間の枠組みでの協議に応じる兆しが見られるという見解を示した。
多国間協議の方式としては、(1)国連安保理常任理事国(米英露仏中)に、北朝鮮、日本、韓国、豪州、欧州連合(EU)を加えた「P5プラス5」の10カ国会議、(2)米朝2カ国に、韓国、日本、中国、ロシアを加えた「2プラス4」の6カ国協議、(3)南北朝鮮と米中両国による4カ国協議、(4)国連安保理常任理事国に、日本と韓国を加えた「P5プラス2」の7カ国協議、(5)「2プラス4」の6カ国に、豪州、イギリス、フランス、ヨーロッパ連合を加えた拡大協議、等がこれまで提案されてきた。但し、北朝鮮との対話を早急に進めるためにも、多国間協議の参加構成国数がある程度小規模で編成される見込みが高い。
(4月15日記)
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