【 イラク化学兵器の破棄事業について 】

 「バグダッドに向けて進軍中の米軍地上部隊がイラクの首都バグダッド南方約160キロの都市ナジャフで、イラクの化学兵器工場と見られる巨大な施設を発見した」との未確認情報が23日報道された。その後化学兵器工場であるとの説は否定されているが、イラクは過去のイラン・イラク戦争、国内のクルド人に対する弾圧等においてマスタードガスや神経ガスを使ったといわれている。また神経ガスの一つであるVXガスを保有していたことは周知の事実である。化学兵器は「貧者の核兵器」といわれているように比較的容易かつ安価に作ることができ、神経ガスサリン、VXが我が国でもオウム真理教によって作られたことがあるのは記憶に新しいところである。

 いまだに廃棄されていない化学兵器工場、貯蔵庫等の施設が今後発見される場合は、国連決議違反として米英軍の武力行使の正当性を強化する意味で国際世論に大きな影響を及ぼすことになろうが、戦後処理、復興支援を考える場合も発見された化学兵器をどのように破棄するかは、国際社会が協同で取り組むべき優先課題の一つとなろう。

 化学兵器の破棄事業について我が国は現在相当の技術的蓄積を有している。我が国は1997年に発効した化学兵器禁止条約に基づき、中国に遺棄された旧日本軍の化学兵器を発掘・回収し、処理するというプロジェクトを現在進めている。中国遺棄化学兵器はマスタード等の「びらんガス」が主体であり、大量に残されているという特性がある。このため我が国は大量の化学兵器なかでも「びらんガス」を安全かつ短期間に環境に影響を及ぼさないように処理する技術について、これまで数々の検討を重ねてきている。これまでの技術的蓄積、能力を活用することにより大量の化学兵器を安全かつ迅速に処理するという面で、我が国は十分に貢献できる立場にある。

(古澤軍縮研究員)