研究レポート

2024年欧州議会選挙について:民主主義の発展か、EU政治の停滞か

2024-07-03
臼井陽一郎(新潟国際情報大学教授)
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「伝統的安全保障リスク」 研究会 FY2024-1号

「研究レポート」は、日本国際問題研究所に設置された研究会参加者により執筆され、研究会での発表内容や時事問題等について、タイムリーに発信するものです。「研究レポート」は、執筆者の見解を表明したものです。

はじめに:選挙結果の概略

 親EU派のグランドコアリション(EPP・S&D・Renew)が過半数を維持したものの(過半数362に対して399議席、55.4%獲得)、EU懐疑的右派・極右勢力(ECR・ID)も着実に議席を増やした(141議席、19.6%)。無所属のAfDとフィデスを加えると23%に達する。親EU派の低減傾向とEU懐疑派の増大傾向は、今回も変わらなかった。もはや長期的潮流である。大敗したのが中道リベラルのRenewとグリーンであった。Renewは第4党に後退(74議席、10.3%)、かわりにECRが第3党に躍進した(83議席、11.5%)。右派・極右勢力増大の今後の影響として、ウクライナをはじめとした加盟国拡大に必要な基本条約改正が難しくなった点を挙げられる。EUの権限拡大は強い反対に見舞われるだろう。また個々の重要法案が採択されなくなる可能性も指摘できる。何れの場合も、EPPがS&DおよびRenewと共同歩調を維持できるか、むしろグランドコアリションとは袂を分かち、ECRと連携しはじめるかどうかが鍵になる。後者の場合、地政学的不確実性にあって求められるEU一体となった行動がますます困難になっていくだろう。

欧州議会と政治会派

欧州議会選挙は今回で10回目となる。期間は6月6日からの4日間、総有権者数は3億6257万3028人に上る。インドには到底及ばないが、アメリカは上回る。加盟国が選挙区となり、それぞれ議席数が割り当てられる。選挙直前はブレグジットにより705に減っていたが、フランス、スペイン、オランダの2議席増など調整がはかられ、総議席数は720となった(第1表)。この3カ国とも、右派・極右政党が議席を増やしている。加盟国つまり選挙区ごとの定員は、最大がドイツの96議席、最低がキプロス・ルクセンブルグ・マルタの6議席であるが(同じく第1表)、一票の格差がなんとも巨大だ。主権国家内の議会選挙とは質的に異なる。ヨーロッパ市民の主権的意思の表明が制度的に担保されたものとは言い難い。欧州議会選挙の重要性が高まれば高まるほど、一票の格差が問題になるという構造的な問題が存在する。この点に留意しておきたい。

第1表 各国の議席割当数

欧州議会の権限は着実に拡大してきた。2009年リスボン条約までの制度改革により、予算・立法・監視・人事・人権の5つの分野で一定の政治力をもつに到っている(第2表)。域内政治だけでなく、対外政治の面でも、EUにとって重要な存在である。本来的にはセカンドオーダーの選挙であってはならない水準の権限が、欧州議会に与えられている。過半数361議席をめぐって、欧州政党(European Political Parties)が選挙戦にしのぎを削った。

第2表 欧州議会の主な活動

現在のところ、欧州政党を母体とした政治会派1が欧州議会内に7つ設置されている(第3−1表)。欧州政党はEU非加盟国の政党もメンバーとなる場合があるが、選挙結果を受けて欧州議会内に政治会派を設けるのを常としている。EUはこれをヨーロッパ・デモクラシー成熟のために推奨してきた。政治会派には助成金も供与される。欧州政党が欧州議会だけでなく欧州委員会の委員、欧州理事会の首脳、EU理事会の閣僚も含め、さらには地域評議会を構成する自治体首長たちにまで、党派的組織性を主張し、党議拘束を課し、行動力を高めていくとなれば、それはEUが単一政体としての性格を強めていくことにも帰結する。今回の選挙では欧州政党のメディア露出度に、ことのほか高いものがあった。それはフォンデアライエン欧州委員長二期目の可能性もさることながら、右派・極右系会派がメディアに注目されたことによる。EU懐疑的勢力の存在ゆえに、欧州議会選挙がサーチライトを浴びたのである。

現在の7つの政治会派は次の通り(第3−1、3−2表)。キリスト教民主主義系のEPP(欧州人民党)2、社会民主主義系のS&D(社会民主グループ)3、中道リベラルのRenew(欧州刷新)4の3会派が、EU賛成派のいわゆるグランドコアリションを形成する。今回の選挙ではEU懐疑的右派・極右の躍進が予想される中、グランドコアリションが過半数を取れるかどうかがひとつの焦点となっていた。

欧州保守主義をベースとしたユーロリアリズムを理念とするECR(欧州保守改革グループ)5が右派に、ID(アイデンティティとデモクラシー)6グループが極右に分類可能だろう。前者のECRはソフト欧州懐疑主義のグループとも呼ばれる7。元々イギリス保守党が設立した会派だが、ブレグジット後はポーランドの法と正義(PiS)が中心的な存在となり、現在ではイタリア首相メローニのイタリアの同胞(FdI)がリードしている。EUの権限拡張には反対するものの、対EUの姿勢には少なくともこれまでのところは柔軟性がみられる。ユーロリアリズムと呼ばれるゆえんだ。

後者のIDはハード欧州懐疑主義のグループで、フランス国民連合(RN)のルペンやオランダ自由党(PVV)のウィルダース、リーガ(同盟)のサルヴィーニといった、メディア頻出の顔が知名度を上げてきた。ブレグジット以降、EU離脱こそ封印しているものの、基本的にはEUの現行の基本制度枠組(とくにEU法の優位性やユーロを守るための財政規律など)に強く反対しており、構成政党のマニフェストなどには、公然とEU規制への反抗が謳われる場合も多い。選挙直前の5月には、このIDのメンバー政党であったドイツのための選択肢(AfD)が、ナチ賛美に近い言動があっとして、IDグループから追放されている。ルペンによるいわゆる脱悪魔化の一環だと指摘される。"普通"の政党が正統な選挙で力をつけ、超国家の間違ったEUを主権国家連合の正しいEUに変えていこうという主張の、主流化を狙ったものでもあろう。

第3−1表 欧州政党と欧州議会内政治会派

第3−2表 欧州政党と欧州議会内政治会派の関係

以上に加えて、環境保護政党のヨーロッパ組織・欧州緑の党(European Green)と、地方政府の自律性を訴える欧州自由連盟(EFA)が、合同でグリーン/欧州自由連盟(Green/EFA)を設置している。また急進左派および極左が欧州左翼党(European Left)を結成し、欧州議会に左派グループ(The Left)を結成している8。上述のECRとIDにとって、グリーンと左派グループにS&Dを加えた勢力は左派グローバリストとして一括される政敵であるが、逆にECRとIDは左派・グリーンそしてS&Dにとっては、人権とデモクラシーの敵であり、コルドンサニテール(防疫線)が必要な排除されるべき敵となる9

政治会派にとって、議席数は活動の重要な基盤となる。欧州議会では、欧州委員会送付法案は専門委員会で審議される。20程度ある専門委員会の委員は、基本的には議席数シェアに応じて各政治会派に配分される。どの委員会も、政治会派間議席比率が保たれるように配慮される。委員会審議では、修正提案も可能な法案説明担当者(ラポルトゥールと呼ばれる)が重要になる。議席数が多い会派ほど、重要法案でラポルトゥールを取りやすい仕組みが作られている。これまでもEU懐疑主義の議員が務めることはあったが、数は少なかった10。ECRが第三党に浮上したため、今後は法案審議に一定の影響力をもつようになるだろう。

筆頭候補制の行方

政治会派の議席数は、欧州委員会委員長人事への影響力という点でも重要になる。欧州議会では2014年第8回選挙以来、最大議席数を確保した欧州政党の筆頭候補を欧州委員会委員長にすべきだとする制度運用が推奨されてきた。これを筆頭候補制という。欧州政党はIDを除いてこの運用を実践してきた。IDは統合が進むとの理由でこの制度に反対、候補を立てなかった。ただしそれは表向きの理由で、グループ内の対立で調整がつかなかったためだと推測可能だ。議席数で躍進してもまとまれない極右の実例だ。

2014年選挙では筆頭候補制に則した運用が成功したのだが(最大議席を獲得したEPPの筆頭候補ユンカーが欧州委員長に信任された)、前回2019年選挙ではこの制度運用がEU首脳に否定されてしまった。首脳会合である欧州理事会には、欧州議会選挙の結果をふまえて欧州議会に委員長候補を推薦するという役目がEU条約により与えられているが、その欧州理事会は----報道によれば独仏のリードにより----最大議席数を獲得したEPP筆頭候補マンフレッド・ヴェーバーではなく、現委員長のフォンデアライエンを推薦してきた。閉じられた扉のなかで重要人事が決められてしまったことに、当時多くの批判が集まった。欧州議会での信任投票も、まさに僅差であった(賛成383票・反対327票・棄権22票)。

今回の選挙では、筆頭候補制が復活するかどうかが注目されていた。グランドコアリションが安定多数を獲得できれば、フォンデアライエン現委員長の二期目という形で、筆頭候補制復活が見込まれるところであった。選挙直後にグランドコアリション三派は、フォンデアライエン二期目を承認する形で、筆頭候補制の適用を訴えていた。ところが、本稿執筆時点になると(2024年6月22日)、無所属議員の引き抜きによりECRがグランドコアリションの一角Renewを抜いて第三党に躍り出て、リーダー役のメローニがEU機関人事に発言を要求している。結局はメローニの要求は叶えられず、グランドコアリション三会派に所属する首脳が6月27日開催の欧州理事会にフォンデアライエンを推薦、承認されている(メローニはオルバンとともに棄権した)。しかし、欧州議会での信任投票は秘密投票であり、EPP内部に反フォンデアライエン勢力も存在しているため、本稿執筆時点ではいまだ先行きが見えない状況だ。仮にこのまま筆頭候補制が復活するとすれば、EUデモクラシーの再生とまでは言えないものの、通常の国際機関とは異なるEUの単一政体としての性格は強化される。次回欧州議会選挙ではいっそうのヨーロッパ化が進展するだろう。

選挙結果の概略

選挙前の予想では、EU懐疑的右派・極右勢力が躍進するとみられていたが、親EU派のグランドコアリションが一応は過半数を確保した。しかし得票率は過去最低の55.4%であった。第5表に示したとおり、2009年に72.4%の議席シェアを誇っていたグランドコアリションは、以降3回の選挙すべてにおいて議席を減らしてきた。次回選挙で過半数を確保できるかどうか、見通しがつかない状況だ。それに対して、EUの権限拡張を批判し加盟国に権限を戻すことを主張するEU懐疑的右派・極右勢力は、今回激増でこそなかったものの、着実に議席増を実現している。ECRとIDの合計は141議席、得票率19.6%に達した(以上、第4表、第5表)。現在無所属のAfDやフィデスも合わせてこの勢力全体の規模をみると、議席シェアは23%にまで伸びる(メディアによっては25%に達したとの推定もある)。グランドコアリションとは真逆に、この勢力は過去15年の間一貫して議席を増やしている。

ただし、23%のEU懐疑的右派・極右政党がひとつの会派としてまとまる右派・極右グランドコアリションについては、今回もまた実現しそうにない。6月30日には、基本のイデオロギーにはかなりの類似性がみられるが(キリスト教ヨーロッパ文明の優位性、移民排除、グリーンディールへの抵抗など)、大きくはEU改革への急進性の程度において、また個別にはウクライナ支援・対ロシア制裁への構えで相違があり、これにリーダー間の個人的軋轢も加わり、大同団結できない状態にある。EUはまとまれない右派・極右に助けられているとさえ言えそうだ。ただし、ヨーロッパ・レベルのトランスナショナルな連携が苦手であったEU懐疑的右派・極右系政党が、欧州議会選挙のたびに大同団結を試みてきたことも確かだ。学習の経験値は確実に上がっているとみるべきだろう。

第4表 欧州議会内会派の議席数とシェア

第5表 低下するグランドコアリションの比重と拡大する右派·極右勢力

以上のように、親EUグランドコアリションの歴史的低減傾向と、EU懐疑的右派・極右勢力の歴史的増大傾向が、欧州議会選挙の長期的趨勢として変わることなく続いている。

他方で、大敗を喫したのが中道リベラルとグリーンであった。主因は、フランス国内のマクロン不人気と、EUグリーンディールへの反発に求められるが、マクロンの政党・再生の議席減(8議席減)だけでなく、チェコの政党ANO(選挙では7議席獲得)が選挙後にRenewから離反したことも大きい。この二つの要因でRenewは15議席減となった(第6表)。

第6表 主要政治会派の所属政党議席数

選挙戦の最中には、EUグリーンディールに反発する農家のトラクター抗議がブリュッセルのEU本部はじめ欧州各都市で勃発した。EU批判を刺激的にアピールする映像が、多くのメディアに流れたのも記憶に新しい。ユーロバロメーターによると、選挙の主要争点は所得・雇用や医療であり、選挙前に右派・極右政治家の刺激的発言で注目されていたマイグレーションではなかった(第7表)。実際のところ、EU懐疑的右派・極右勢力がアピールしたのも、マイグレーションそれ自体というよりむしろ、生活不安であった。各国のグリーン系政党は、この有権者の反発をまともに受ける形になってしまった。

第7表 欧州議会選挙の争点

カタールゲート(収賄)、ロシアゲート(情報操作)、チャイナゲート(情報漏洩)により、欧州議会の対外的脆弱性が露呈したなかでの選挙戦となってしまったが、投票率は今回も上昇した(51.01%)。これで過去3回連続の上昇だ(第8表)。いまだ各国事情が優先される国内選挙の寄せ集めで、セカンドクラスの選挙とも揶揄されるが、欧州議会選挙のヨーロッパ化は、着実に進んでいる。ただしそれは、EU懐疑的右派・極右勢力の拡大や、農家のトラクター抗議といった、EU批判に拠るところ大である。EUへの強い批判が欧州議会選挙のヨーロッパ化をうながすという、EU推進派にとっては危うい情況が生起している。

第8表 欧州議会選挙投票率の推移

EU懐疑的右派・極右勢力の今後

EU懐疑派勢力は、ブレグジット以降、EU離脱の訴えこそ封印してきたものの、EU内の反体制派として、主権国家の自律性を確保し、各国の拒否権を認めさせるためのEU機構改革を、強く主張している。欧州議会内に23%の懐疑派が集った以上、たとえ統一会派形成が上手く行かず、懐疑の度合いがソフトな政党も存在し、EUへの攻撃性が抑えられたとしても、EU基本条約の改正が厳しい状況に置かれたことは確かであろう。ウクライナをはじめ8カ国に及ぼうかという、おそらくは最後のビッグバン的EU拡大を進めるにあたって、基本条約(EU条約・EU機能条約)改正は必須の課題である。拡大への制度的対応だけではない。オルバンのハンガリーに代表されるような、拒否権行使による反EU的振る舞いへの措置も必要だ。地政学的に危うい状況にあって、これはどうしても止めねばならない。そのためにも条約改正が求められる。今回の選挙でそれが難しくなってしまった。

選挙前には二つのEU条約改正案が提出されていた。独仏ペーパー11と、欧州議会案12である。ECRもIDも、EUを連邦国家化するものだと強く反発している。どちらも重要政策領域で多数決制を導入しようとする提案に過ぎないのだが、ECRおよびIDにとってはきわめてセンシティブな問題となる。理事会でもすでに7ヵ国の政権にEU懐疑的右派・極右政党がその地歩を確保している以上(第9表)、条約改正に着手すれば国内法に対するEU法優位やEU司法裁判所の管轄権が大きく損なわれる方向に引っ張られることもありえよう。

第9表 IDとECRなどEU懐疑派が政権に参加しているEU加盟国

EU懐疑的右派・極右勢力の拡大は、条約改正という中期的課題に取り組むことを難しくしただけではない。個々のEU立法においてさえ、重要法案が議会で可決されなくなる可能性を指摘できる。EU懐疑的右派・極右勢力の23%という数字は大きい。今回の選挙結果では、一応は親EU派のグランドコアリションが過半数を維持したが、上述のように過去最低の議席数だ(過半数361に対して399議席、55.4%)。念頭に置くべきが、グリーンディールの目玉のひとつ、自然再生法の本会議採決の際の投票行動である13。本年2月のことだ。フォンデアライエン委員長肝いりのグリーンディールにとって、重要な柱の一つとなる法案であったにもかかわらず、EPPがECRおよびIDとともに反対に回り、あわや否決かというところまでいった。ギリギリの可決であった。一部のEPP所属議員がEPPの方針に反して賛成に回ったため、かろうじて欧州議会本会議にて承認されたのだが、今後もEPP・ECR・IDの投票行動が結果的に一致し、法案を否決するという事態は十分にありえる。欧州議会内の中道右派・右派・極右が統一会派----右派・極右グランドコアリション----を組まなくとも、結果的に投票行動が等しくなれば、欧州委員会の立法案は通らない。いまや中道右派EPPが、中道左派・左派・グリーンとは組めなくなるほど右傾化するという事態が、可能性として考慮されるべき段階に来ている。今回のEPPの議席増は、オルバンのフィデスから袂を分かち躍進したTisza(尊重と自由)の参加も大きい。7議席のプラスだ(上掲第6表参照)。仮にEPPの右傾化が進めば、欧州委員会は法案策定段階で、右派系に通りやすいような法案に仕立てていくことも、十分に考えられる。

なお、7月1日になって、フィデス・オーストリア自由党(FPÖ)・チェコのANOが、愛国者のためのヨーロッパという名称の会派立ち上げに合意している。FPÖはIDから、ANOはRenewから離脱して、オルバンのフィデスに合流した形だ。会派として認定されるには7ヵ国以上23議員以上の参加が必要となり、本稿執筆段階でその帰趨は不明であるが、ID所属政党がこの流れに乗れば、IDの再編にも帰結する。いずれにしても、欧州議会内右派極右勢力23%が一つにまとまることはない。しかしにもかかわらず、重要法案で結果的に投票行動が等しくなることは十分に考えられる。その動きにEPPの一部が同調していくことになるかどうか。ここに注目していきたい。

おわりに

ロシアのウクライナ侵略や中国の経済的威圧といった地政学的現実を前に、EUの連帯を難しくする要素が埋め込まれた選挙となった。親EU派はかつてない困難な政治課題に直面している。欧州議会で23%に達したEU懐疑的右派・極右勢力を、反体制派から建設的野党へと陶冶していくことができるかどうか。懐疑勢力を周辺的集団として無視できる段階はすでに終わっている。これに加えて、議会内最大勢力の座を維持したEPP自体が右旋回し、グリーンとはもちろんS&Dとも連携できなくなり、むしろECRの方へと傾いていく可能性にも留意すべきだ。EPPがS&Dおよびグリーンから離反するという事態は、EUというトランスナショナルな政策形成機構のイデオロギー的性格を本質的に変えていく。少なくともグリーンディールという政策パッケージは、後退を余儀なくされる。

EUデモクラシーに則して勢力を拡大しているEU懐疑派の、その民主的な政治活動を通じたEU機構の弱体化という事態が、ほんとうにありえるのかどうか。民主主義の進展がEU政治を停滞させてしまうのかどうか。2024−29期の欧州議会に注目していきたい。




1 全般的な解説としてBrack, N. and Wolfs, W. (2023) European Political Parties: Poorly Identified Political Bodies? Jacques Delors Instituteを参照のこと。

2 母胎となる欧州政党も同じ名称。

3 母胎となる欧州政党は欧州社会党(PES)。

4 母胎となる欧州政党は欧州自由民主同盟(ALDE)。これに欧州民主党(EDP)が加わった。

5 母胎となる欧州政党は欧州保守改革党(ECR)。これに欧州キリスト教運動(ECPM)からも一部合流。

6 民族と自由の欧州運動(MENF)が改組されアイデンティティとデモクラシー党と改称、同名会派を設置。

7 ECRについては拙稿「欧州議会と欧州懐疑主義:欧州保守改革グループ(ECR)の場合」『新潟国際情報大学国際学部紀要』第9号(2024)、79-96頁を参照されたい。

8 欧州統一左派・北方緑の左派同盟(GUE/NGL)が改組された組織である。

9 実際に社会・民主グループ、グリーン、左翼グループに欧州刷新を加えた4会派が、ECRおよびIDに対する防疫線(コルドンサニテール)設置を訴えかけている。Declaration from the S&D, RENEW, GREENS and THE LEFT European Parliament Political Group Leaders: In Defence of Democracy, Brussels, 8th of May 2024.

10 欧州議会における極右グループの行動については次の文献が詳しい。McDonnell, D. and Werner, A. (2019) International Populism: The Radical Right in the European Parliament, Oxford University Press.

11 The Group of Twelve (2023) Report of the Franco-German Working Group on EU Institutional Reform-- Sailing on High Seas: Reforming and Enlarging the EU for the 21st Century, Paris-Berlin, 18 September 2023.

12 European Parliament (2023) Proposals of the European Parliament for the Amendment of the Treaties, P9_TA (2023) 0427.

13 この自然再生法の投票が欧州議会内政党政治にとって重要な意味をもつことについては、スティーブン・デイ教授(大分大学)にご示唆いただいた。感謝の意を表したい。