2月6日―8日の石破茂首相の訪米は、期待以上の成果を挙げた。ほとんどの重要な問題をカバーし、非常に心強いものだった。以下、いくつかの要点を挙げる。
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良いニュースは、トランプ大統領が、中国と向き合い、取引を行うにあたり、米国にとって日本が重要であることを理解しているように見えることだ。安倍元首相はトランプ大統領にこの点を印象づけ、トランプ大統領の心に残った。トランプ大統領は石破茂首相にも非常に好意的だったが、彼は著名な実業家であり、重要なゲストを喜ばせる術を心得ている。
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トランプ政権への対応においては、書面による声明を出すのが得策である。そもそもトランプ大統領との間では、ホストがゲストよりも長く話す傾向にあり、共同声明に盛り込まれたすべてのポイントに会談中に触れることは不可能だ。日本がトランプ政権に再確認を求めたかった重要なポイントのほぼ全て、すなわち、北朝鮮の非核化へのコミットメントや、台湾海峡の平和と安定の重要性の再確認、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)戦略と日米韓、日米比、その他の多国間協力体制の重要性などが共同声明に盛り込まれた。
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こうした前向きな成果があったにもかかわらず、それ以降に起こったことを考えると、何もかもが当然のことだとは言えない。欧州の重要な同盟国との関係の緊張や、高関税の普遍的適用実施は、以下に述べる根本的な懸念を強めるものであり、トランプ大統領の発言に対する信頼性の低さがそれをさらに悪化させている。
私の基本的な評価は、トランプ政権2.0の影響は、現在の傾向が続けば、相当に大きく、かつ長期にわたるものと考えざるを得ないということである。今重要なのは、依然として不明瞭なトランプ大統領の行動を推測することではなく、日本ができることを考え、以下に述べるような提案を実施することである。
1. 国際紛争への選択的関与=チャレンジ・シェアリング時代の到来
米国は能力はあるが、紛争解決に関与する意思がますます下がっている。これはトランプ大統領だけの問題ではなく、米国全体の問題である。トランプ大統領は予測不可能な人物のように見えるが、実際には「軍事的タカ派」ではない。米国の国益に直接関係のない問題で米兵の血を流すことに極めて慎重であり、従って、同盟国への共感も元々薄い。
米国が紛争を解決し、同盟国や同志国がその費用を分担するという「バーデン・シェアリングの時代」から、同盟国や同志国が紛争解決そのものに関与しなければ、紛争が継続してしまう「チャレンジ・シェアリングの時代」へと、世界は不可逆的に変化しているのだ。
ウクライナ停戦の鍵はロシアの再侵攻を防ぐことだが、米国は今のところそのための努力をする気がないように見えるので、欧州のNATO加盟国などがウクライナに停戦監視軍を派遣し、ロシアがこれを攻撃すればNATOの共同防衛が発動されるような仕組みが必要である。それが実現できるかどうかが、チャレンジ・シェアリング体制の最初の試金石となる。
同時に、これは「力による支配」(米国への恐れ)によって解決策が達成される時代から、国際社会の大多数の支持によって解決策が正当化される「多数派による支配」の時代へと移行することを意味する。そのためには、影響力のあるグローバル・サウス諸国の関与と支持を得ることが不可欠となる。
2. 「アメリカ・ファースト」の原則=同盟は特権ではない
マルコ・ルビオ国務長官は上院の指名公聴会で、国務省の行動は米国を「より安全で、強く、繁栄した国にする」かどうかで判断されると述べた。各国の地位はもはや「同盟国だから」という理由で決まるのではなく、関係を評価する基準は、具体的な行動を通じて「アメリカ第一」の政策に貢献しているかどうかになる。
この基準を満たさない国は、同盟国であるか否かにかかわらず、トランプ政権にとって関心の対象ではなくなり、見捨てられる可能性もある。石破首相の訪問は、この点において日本には問題ないことを示したが、トランプ政権高官が米国の同盟国であるフィリピンやその他の東南アジア諸国について語るのを私はほとんど聞いたことがない。
したがって、日本は隣国であるこれらの国々を助ける必要がある。まず、一つの案として、インド、インドネシア、日本、オーストラリアの4カ国で「アジア版クワッド」を作り、最近BRICSに加盟したインドネシアを組織的にこちらサイドに引き込むことが考えられる。
台湾有事の際にはフィリピンの役割が重要になることを考えれば、フィリピンへの支援は欠かせない。日本がフィリピンを支援し、フィリピンが始めている東南アジア諸国の沿岸警備隊間の協力強化を進め、南シナ海で合同演習を行うことも考えられる。また、国際社会の関心を維持するために、ASEAN事務局に働きかけて、南シナ海問題を国際仲裁裁判に再び持ち込むことも一案である。
いずれにしても、日本は「日本が東南アジアの安定を担う」という決意と覚悟を持って行動しなければならない。上記の行動は米国をより安全で、強く、繁栄させるものであり、日米同盟の強化にもつながる。
3. 米国の「戦狼外交」=信頼と友人の喪失
トランプ大統領は、グリーンランドとパナマ運河の米国による支配を求め、その実現のために軍事力の行使さえ排除していない。米国が今日ロシアと異なるのは、実際に武力を行使していないという点だけである。もちろん、米国が武力行使をする可能性は極めて低いが。
その背景には、「例外主義」という考え方がある。すなわち、大国は自らの望む秩序を創り出すことができるという考え方である。トランプ大統領自身、暗殺未遂から生き延びたのは神に選ばれたからだと考えている。
第2次世界大戦以降、世界が基本的に安定してきたのは、二つの世界大戦の教訓から、国連憲章に体現されているような、ルールに基づく秩序、主権国家の平等、領土保全の維持、武力による一方的現状変更の禁止といった基本原則について国際社会でコンセンサスが形成され、米国がこの秩序を力によって維持してきたからである。
米国が秩序維持の努力を止めるだけでなく、秩序を破壊することにためらいがなくなれば、その影響は非常に大きなものとなるだろう。戦後の秩序は根本的に崩壊し、米国は第2次世界大戦後から積み上げてきた善意と信頼を不可逆的に失うことになる。
これは日本のような米国の同盟国に非常に深刻な影響を及ぼす可能性があり、多数派による支配の時代に対応するためにグローバル・サウスの有力国を巻き込むことがますます急務となる。
例えば、G7に常設アウトリーチ・パートナー(POP)グループを創設し、G7議長国が誰であろうとも、POPは常にG7会合に招待されるようにすることも一案だ。POPは、インド、ブラジル、インドネシア、ASEAN議長国、ナイジェリア、南アフリカ、AU議長国、サウジアラビア、トルコ、韓国、オーストラリア等が含まれ得るだろう。日本は、最初のG7会合から50周年を迎えた後の新たな50年を開始する年になる2026年にフランスが議長国としてG7の新たなラウンドを開催する際に、このアイデアを実現するようにフランスに働きかけるべきだろう。
日本は、米国の重要な同盟国でありながら、未だトランプ2.0の主要な標的となることもなく、既存のグローバル秩序と米国の両方を支援する意思と能力を持つという、ユニークな立場にある。今こそ、日本の外交が花開く時である。