コラム

未来との結託

2009-07-22
西村六善(客員研究員)
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共産主義は崩壊した。何故か? 未来と結託していなかったからだ。GMもそうだ。未来と結託しない企画は成功しない。低炭素化運動は未来と固く結託している。それは化石燃料依存文明を過去のものとし、低炭素、低負荷で持続成長をする新文明を築こうとするものだ。次世代に良質な環境を引き渡そうとするものだ。世界を低炭素化する企画は崩壊することはないだろう。

それどころか、早く徹底して低炭素化する方が国際競争上も優位に立てる。新興国の資源爆食に直面する日本の将来を考えればそれは明らかだ。日本は化石燃料に依存しなくても成長できる体制に早く移行するべきだ。エネルギー集約産業を海外に移転させて日本が低炭素化するのではなく、その産業の生産過程を低炭素化することによってそれを実現することが出来る。

米国が外国産化石燃料依存から脱却することをエネルギー安全保障上の最大の問題として大議論している有様は印象的だ。10年以内に米国の電力を太陽熱発電で100%賄うという提案すらある。そして膨大な資源が再生可能エネルギーの開発とエネルギー・インフラ、関連する基礎研究に向かっている。「低炭素化エネルギー革命」と言うべき現象が瞬く間に始まった。Transformationと言う一般名詞は「低炭素化への構造変革」と言う特定の意味を持つ単語になった。

その上、時恰も金融・経済危機の克服にも「低炭素化エネルギー革命」が役割を果たすに至った。グリーン・ニュー・ディールの名の下で、低炭素化が巨大投資を起爆し、危機を克服し、雇用を作り出し、成長を促す。こう云う良好展開を実現しようとして巨大エネルギー投資が始まった。トーマス・フリードマンは今やIT時代からET(Energy Technologies)の時代だと言っている。

今年の前半日本国内で議論された所謂「中期目標」問題は、しからば日本はどう云う工程表で低炭素化するのかを決めるものだ。長期的には日本は2050年までに現状から60-80%の規模で温室効果ガスの排出を減らすということになっている。長期を含め中期についても日本国内では野心的な目標設定を戒める空気が強い。曰く、国際受けを狙って出来もしない野心的な数字を弄ぶべきでない…家計の負担になる…ほどほどにして置け… こう云う空気だ。日本経団連は二度にわたり全国紙に意見広告を掲載し、野心的な目標設定に警告を鳴らし、削減ではなく「排出増加」を正式に要求した。

しかし、その後の事態は消極姿勢を飛び越えて進展しようとしている。それなりの野心的な中期目標を確立して排出削減に努力すると経済を潤す。排出削減の切り札の一つであるエコ・カーへの減税措置の結果、ハイブリッドには行列が出来、その結果、自動車生産が伸び、自動車に使われる高級鋼板への需要がが増え、鉄鋼業界の操業が回復傾向に向かった。その結果、自動車工場で販売される弁当の売り上げも増えた。この弁当製造業者は中期目標に関する公聴会では家計への負担を理由に野心的な目標に反対を唱えた筈だ。しかし、この人の意見に従って、政府が「排出増加」を決めていたら弁当の売り上げは増えなかったであろう。国家は世論の先を見なければならない。未来と結託すると云うことはこう云うことだ。

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気候変動は深刻だ。日本ではこの深刻さが十分に理解されていない。他人事のようにとらえられている。しかし、事態は真実深刻だ。欧米社会で産業革命以前からの温度上昇を何とか2度C以内に抑えようと必死なのは、それ以上になれば地球環境に不可逆な動きが始まり人知を超える領域に突入する危険があると感じているからだ。現実には産業革命以降既に0.7度C上昇してしまった。更に1.3度Cも上昇するとなると、そうと言う危険はありそうだという意識は誰でも持つ。科学者の多くや途上国の一部は2度Cでも不十分と主張している。

今回のG8サミットとMEF会議で2度C目標は国際的な合意事項となった。それは米国が欧州の兼ねてからの主張に歩み寄った為に可能になった。2度C目標を途上国も受け入れたことも特筆に値するが、米欧が大西洋共同リーダーシップを確立した意義も大きい。日本ではそう言う目標を確立することに国内の拒絶反応が強かった。しかし、今回あっさりと波に飲まれた。

重要なことは地球救済へのリーダーシップが問われてきていることである。気候変動は所詮は対立する利害のやり取りだから、賢く立ち回って日本の削減義務を軽くし、他国に沢山やらせて日本の国益を伸長すればよいのだと云う意見がある。しかし、温暖化問題の実態的深刻さを深く認識し、先ず自ら率先して大幅に削減し、途上国を動員し、世界を引っ張って何とかこの問題を解決しようとするオバマ政権の出現がどの国にも態度変更を迫っている。 勿論日本にも。

日本は従来の次元を超えた「立ち位置」を決めなければならない。日本は地球的で人類的な危惧を共有し、日本がCO2排出削減を進めて急速に低炭素化することは日本の自己利益だという確信を持たねばならない。こう云う信念に立って、リーダーシップを担う一員になることが必要だ。このリーダーシップは未来と結託していると言わざるを得ないのだから。
(了)