コラム

ジャパン・ハンズを養成せよ――戦略的外交シンクタンクのなすべきこと

2010-01-27
西川 賢(研究員)
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筆者はつい先日、米国の首都ワシントンDCで開催された第16回日米安全保障セミナーに出席した。同会議にはいつも「ヤング・リーダーズ」と呼ばれる未来の外交を担う日米の若手(大学院生からポスドクぐらいの年齢層)が選ばれるのだが、残念なことに、日米双方とも、ここ数年あまり変化のない面々で構成されているように見受けられた。1975年生まれの筆者と同年代の日米のポスドクや官僚、その他のオピニオン・リーダーたちが「ヤング・リーダーズ」と呼ばれているのをみると、若干寂しくもある。

この傾向はとくにアメリカ側に顕著なように思われ、きわめて個人的感想ではあるが、アメリカにおいて日本専門家たらんとする気鋭の若手が減っているという印象を持った。外交も結局は「人と人によりなされる営み」であることを念頭に置けば、日本に興味を持つ「未来のジャパン・ハンズ」が減りつつあるというのは由々しき事態のようにも思われる。

いうまでもないことであるが、日本外交にとって重要な課題の一つはアメリカにおいて日本専門家を志し、将来の日米の架橋になるような有望な若手を育てることである。

無論、日本を愛好するアメリカ人に無暗に人脈をつなげばそれでよいというものではない。アメリカの政権内外において影響力をもつ(あるいはもつであろう)人々を見極め、それらを一つの人的ネットワークへと織りあげて(synergize)していくことが重要である。このような作業には必ずしも職業外交官や政治家が向いているわけではない。むしろ、そのような「毎日雑草を抜いてバラを剪定するガーデナーのように重要な同盟関係に気を配る」かのような地道な作業こそ、戦略的な外交シンクタンクや民間企業などが「パブリック・ディプロマシー」の一環としてなすべきことではないか。

例えば民間レベルにおいては日立‐CFRフェローシップ・プログラムが米国のオピニオン・リーダー層に日本をより良く理解してもらうことを目的として設立され、外交問題分野で権威のある外交問題評議会(Council on Foreign Relations)と提携し、米国各界の中堅リーダーを毎年日本に招聘してきた(註1)。
同プログラムはジョン・アイケンベリー氏(現・プリンストン大学教授)、R.マイケル・シファー氏(現・国防副次官補)、フランク・ジャヌージ氏(現・米上院議会外交委員会上級スタッフ 東アジア担当)などを輩出し、現在までに日米関係の発展に陰ながら大いに寄与してきたといえよう。

日本国際問題研究所も数多くの海外フェローを受け入れてきたが、その一人であるシーラ・スミス氏(現・外交問題評議会上級研究員)がバラク・オバマ大統領の対日外交政策顧問に一人として活躍したことは記憶に新しい。

このような極めて地道な作業の積み重ねこそ、真の意味でのパブリック・ディプロマシーへの貢献につながるのではないかと信じて疑わない。

註1:日立‐CFRフェローシップについてはhttp://www.hitachi.co.jp/Int/skk/jirei/education/2052254_45211.html

【追記:2月1日】
この署名記事は、本ホームページ上でも明記してあるとおり、筆者個人の責任下において発表したものです。いかなる意味においても日本国際問題研究所としての見解を示すものではありません。

ここであらためて筆者の意図したところを説明いたします。本コラムは「外交は何よりも人と人により行われる営み」であり、人々を相互に結び付ける地道な作業を積み重ねることこそ、日本外交の未来にとって何よりも重要であるとの自らの考えを伝えることを目的としたものでした。筆者としては、その文脈でこうした作業に取り組んできている種々のプログラムに敬意を表するとともに、それらをより戦略的に高めていくことが望ましい旨述べたつもりでした。特定のプログラムについて、批判するような意図はいささかもありません。

しかしながら、本コラムの表現の中には筆者の意図と異なる捉え方をされかねない部分があったかもしれません。これにより、関係者各位に誤解や不快の念を生じさせた結果になったとすれば、一重に筆者の筆力不足であり、まことに遺憾に存じます。

今後自らの執筆するコラム等については、その主旨がより正確に伝わるよう一層留意をしてまいります。

右、追記いたします。