国問研戦略コメント

国問研戦略コメント(2023-08)
日米韓キャンプ・デービッド合意:評価と課題

2023-09-01
小谷哲男(明海大学教授/日本国際問題研究所主任研究員)
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「国問研戦略コメント」は、日本国際問題研究所の研究員等が執筆し、国際情勢上重要な案件について、コメントや政策と関連付けた分析をわかりやすくタイムリーに発信することを目的としています。

はじめに

2023年8月18日に、米大統領の別荘であるキャンプ・デービッドで日米韓首脳会談が行われ、日米韓パートナーシップの「新時代」の幕開けと、協力分野を「新たな地平」へと引き上げることが謳われた。会談の成果については「歴史的」という評価がある一方、韓国の国内政治の行方次第では合意内容が反故にされかねないとの懸念も指摘されている。以下では、会談の成果を評価するとともに、合意内容を履行するにあたって、特に安全保障協力に焦点を絞って課題を考察したい。

評価

首脳会談では、「キャンプ・デービッド原則」、「キャンプ・デービッドの精神」そして「日本、米国及び韓国間の協議するとのコミットメント」という3つの成果文書が発表された。「原則」には三カ国の共通利益が列挙され、「精神」ではその共通利益を守るために取るべき行動が示されている。この2つの文書では、中国が威圧や現状変更行動を強めていることを背景に、これまでの北朝鮮の非核化に加えて、インド太平洋地域における法の支配に基づく秩序の維持や、経済安全保障、気候変動、新興技術などの分野でも日米韓が協力を拡大することが強調されている。ASEANや太平洋島嶼国との開発や海洋安全保障分野での協力を打ち出したことにも、地域の安定と繁栄に貢献する三カ国の決意が表れている。

また、「精神」では三カ国協力のさらなる制度化に向けた取り組みが提示されている。首脳会談をはじめとして、さまざまな閣僚協議を毎年定例化することや、複数年にわたる共同軍事訓練計画の策定が合意され、ミサイル警戒データの即時共有の実施はこれまでの協力枠組みを持続的なものにすることを目指している。また、偽情報対策や、経済的威圧に備えた早期警戒システムの構築、北朝鮮のサイバー活動監視のためのワーキンググループの設置は、三カ国協力の価値を高めるものとなる。制度化が目指される理由は、三カ国協力を強化する一方で、日韓関係の悪化によって「キャンプ・デービッドの精神」が破綻することを防ぐためであろう。2024年の米大統領選の結果次第で、米国の同盟政策が大きく変わる可能性があることへの保険でもある。

「協議のコミットメント」は、いずれか一国が安全保障上の脅威を感じたときはすみやかに対応を協議することとされており、日米安全保障条約第4条および米韓相互防衛条約第2条の内容を三カ国の枠組みに適用するものである。北大西洋条約第4条にも同様の規定があるが、それを意識したものであろう。北朝鮮による武力の威嚇や行使はもちろん、台湾有事の際にも三カ国が対応を迅速に協議することが想定される。ただし、台湾有事の際は三カ国でこれに共同対処するというよりも、台湾海峡および朝鮮半島における有事が複合的に発生する事態に備えた協議になると考えられる。

この先、三カ国それぞれで政権交代が起こったとしても「原則」で示された共通の利益が大きく変わることはないであろう。これまでの三カ国協力を強化し、その地平を広げたという意味で確かにこの首脳会談は「歴史的」であった。しかし、この先政権交代が起こった場合に「精神」が共有されなくなる可能性は否定できない。今回の首脳会談は3カ国それぞれの政権が同じ方向を向いているからこそ実現したのであり、むしろまれな機会であった。たとえ首脳会談を定例化しても、一カ国でも基本的な対外政策の方針が異なれば、相乗効果は期待できない。首脳会談をうけて今後やるべきことは、各国の国内事情に左右されず三カ国協力を進められるように、実務レベルの枠組みを強化することであろう。

課題

「協議のコミットメント」はあくまで対応を協議することを確約したものであり、共同対処を法的に保証するものではない。ここに北大西洋条約との決定的な違いがある。法的な裏づけがないまま、三カ国の共同対処を可能とするためには、少なくとも以下の取り組みが必要となる。

まず、指揮統制面での調整である。朝鮮半島有事においては、在韓米軍司令官が国連軍司令官および米韓連合軍司令官として指揮を取る(尹政権が慎重な立場を示しているため、戦時作戦統制権の移管問題はここでは議論しない)。主要な在日米軍基地は国連軍の後方基地であるが、今後設置される予定の自衛隊の常設統合司令部のカウンターパートはインド太平洋軍となる。しかし、朝鮮半島有事では、インド太平洋軍はあくまで在韓米軍の支援という位置づけになるため、日米韓の指揮統制面での調整は複雑である。このため、自衛隊から連絡官を国連軍司令部および米韓連合軍司令部に派遣して、調整の複雑さを緩和する必要がある。

次に、自衛隊と韓国軍の協力関係をさらに進める必要がある。日本の平和安全法制により、自衛隊は米軍だけではなく、米軍と行動を共にする外国軍にも後方支援を行うことができるようになった。しかし、日韓の間では後方支援の枠組みが不在であるため、物品役務相互提供協定(ACSA)の締結が望ましい。

また、米韓連合軍が設定する作戦区域(KTO)には公海も含まれるが、これまで行われてきた日米韓共同訓練はすべてこのKTOの外側で行われており、KTO内での自衛隊の作戦を認めたくない韓国側の意向が反映されている。おそらく同様の理由で、韓国は北朝鮮の瀬取り監視に関する日本との協力にも消極的であった。しかし、後方支援の観点からも、非戦闘員退避活動の観点からも、KTO内での自衛隊の作戦は認められるべきである。さらに付け加えれば、日韓の間で円滑化協定を結ぶことは、日米韓協力をさらに強化することになるであろう。

台湾有事に関しては、韓国軍が直接対応する可能性は高くない。しかし、海上封鎖が行われた場合は、韓国も何らかの対応を日米と協調しつつ取ることになるであろう。そのためには、やはり三カ国の指揮統制の調整が重要となる。また、共同訓練にも対水上艦戦や艦隊防空を想定したものを取り入れる必要がある。

加えて、台湾有事と朝鮮半島有事が同時に起こる可能性を想定すれば、日米韓による拡大抑止協議のあり方も議論する必要がある。北朝鮮だけではなく、中国の核の脅威に三カ国でどのように対処するべきか、米国の核態勢やその運用に日韓がどのように関わるべきかを議論する枠組みを、日米・米韓の二カ国の枠組みとは別に、しかし有機的に関連させて設置することが望ましい。

以上は、これまでも必要性が指摘されながら、政治的な敏感さが理由で実現してこなかったものが多い。ACSAや円滑化協定のように議会の承認という政治的な障壁が高いものもあるが、政権の判断でできることもある。「キャンプ・デービッドの精神」に照らせば、これらは今こそ取り組むべき課題である。