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『ひろしまレポート』ウェビナー:核軍縮・不拡散・核セキュリティをめぐる2023年の動向と2024年の課題・提言

2024-03-28
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ウェビナー要旨

1. 日時:2024年3月28日(木)14:00〜16:00

2. テーマ:核軍縮・不拡散・核セキュリティをめぐる2023年の動向と2024年の課題・提言

3. 登壇者(「ひろしまレポート作成事業」研究委員):

秋山信将(一橋大学国際・公共政策大学院教授/日本国際問題研究所 客員研究員)
川崎哲(ピースボート 共同代表)
黒澤満(大阪大学 名誉教授/日本国際問題研究所 客員研究員)
玉井広史(日本核物質管理学会 メンター部会幹事)
西田充(長崎大学 教授)
樋川和子(大阪女学院大学 教授/日本国際問題研究所 客員研究員)
堀部純子(名古屋外国語大学 准教授)
水本和実(広島市立大学 名誉教授)
戸﨑洋史(当研究所 軍縮・科学技術センター所長)(兼モデレーター)
※菊池昌廣(きくりん国際政策技術研究所 代表):都合によりご欠席

4. 形式:オンライン(Zoomウェビナー)、日本語のみ、参加無料

『ひろしまレポート』について−『ひろしまレポート-核軍縮・核不拡散・核セキュリティをめぐる動向』は、へいわ創造機構ひろしま(令和2年度までは広島県)「ひろしまレポート作成事業」の成果物として、事業を受託した(公財)日本国際問題研究所 軍縮・科学技術センターにより、平成24年度より取りまとめられてきた。広島県が平成23年に策定した「国際平和拠点ひろしま構想」に基づく事業である。『ひろしまレポート2024年版』は、今春刊行予定。

実施報告

2024年3月28日、へいわ創造機構ひろしま(事務局:広島県)委託「ひろしまレポート作成事業」の一環として、日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター(以下、「当センター」)主催の公開ウェビナーがオンラインで開催されました。

ウェビナーでは、まず、戸﨑洋史・当センター所長がひろしまレポートの概観と、核軍縮・核不拡散をめぐる2023年の動向について報告しました。

核軍縮の分野では、核兵器の総数に関する動向、G7広島サミットへの評価、ロシア・中国・北朝鮮による核戦力の近代化と強化の積極性な推進、核兵器禁止条約(以下、「TPNW」)第2回締約国会議の開催と宣言・決定のコンセンサス採択、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉をめぐる動向、軍縮・不拡散や教育・ジェンダーを含む多様性・包摂性、市民社会の参加の重要性、ならびに核に関する国連総会決議の投票行動について共有しました。

核不拡散の分野では、北朝鮮による積極的な核・ミサイル開発の継続、非核化に向けた協議の拒絶、安保理決議に違反する不法取引の継続や、米国とイランによる核合意再建に向けた間接交渉の難航、そのイランによるウラン濃縮活動などのさらなる推進、ならびに中露による北朝鮮およびイランの核問題にかかる擁護・黙認などといった状況について指摘しました。

次に、核セキュリティをめぐる2023年の動向について、堀部純子・名古屋外国語大学准教授が報告しました。

まず、ロシアによるウクライナ原子力施設の攻撃・占拠により、国家による原子力施設攻撃への問題解決の難しさが顕著になったことを指摘し、国際的な規範の強化を求める声はあるも進展はみられていないと説明しました。次に、非国家主体の脅威を念頭に置いた従来の核セキュリティについて、原子力施設に対するサイバーやドローンなど新たな技術を用いた攻撃手法の多様化と複雑化の問題、内部脅威リスクの意識向上と対策強化、そして核セキュリティ文化を醸成することの重要性を指摘しました。各国の核セキュリティに対する取り組みの状況では、サイバーセキュリティや内部脅威対策で取り組みが進んでいる国がある一方、国内の体制の構築の遅れや不十分な国も多くあるほか、脅威が多様化・複雑化する中で多国間の取り組みの機運低下が課題となっていることを指摘しました。

続いて、2024年の核問題に関する課題・提言として、本事業研究委員の秋山信将(一橋大学国際・公共政策大学院教授/日本国際問題研究所客員研究員)、川崎哲(ピースボート共同代表)、黒澤満(大阪大学名誉教授/日本国際問題研究所客員研究員)、玉井広史(日本核物質管理学会メンター部会幹事)、西田充(長崎大学教授)、樋川和子(大阪女学院大学教授/日本国際問題研究所客員研究員)、水本和実(広島市立大学名誉教授)の各氏がコメントしました。

西田委員は、核軍拡の時代の到来を受け、自身が提唱してきた「核兵器を使用しない・用いて威嚇しない、核実験をしない、核兵器用の核分裂性物質を生産しない」という規範についてこの1年の動向を基に説明しました。規範が弱まる中、「G7首脳広島ビジョン」をはじめとする核軍縮に対する政治的な関心を高める動きを評価しました。そしてそれら規範以外にも、核兵器国と同盟関係にある非核兵器国における水平拡散にかかる議論の活発化が核不拡散の規範を後退させかねないことへの懸念を指摘しました。核軍拡に対する日本政府の対応への示唆、ならびに核戦力に関する透明性規範の強化向上への期待に言及しました。

川崎委員は、TPNW第2回締約国会議について報告しました。会議に際して多くの市民社会が関わり、国会議員会議の開催や、ユースの共同声明の発表、イベントの開催など官民の連携があったことに触れました。会議では、「宣言」の採択、被害者援助・環境修復に関する国際信託基金のあり方に関する議論の開催の確認、核兵器がもたらす安全保障上の懸念の議論の発展を目指す動きが見られ、核軍縮をめぐる情勢が厳しさを増す一方、核軍縮への前向きな動きがあったと評価しました。

黒澤委員は、TPNWに関する議論の特徴について述べました。核兵器の禁止に向けた議論が継続的に行われていること、科学的な証拠に基づいて政策が組まれていることに触れた上で、①核兵器の全面的廃絶、②国内実施措置、③締約国数の増加、④他の条約との補完性について課題があることを指摘しました。そして、核兵器に関する議論が国家安全保障から人類・人間の安全保障の方向に進んでおり、科学的に検討し確立する動きを評価しました。

水本委員は、2017年と2018年に実施した訪朝について報告し、市民交流の重要性を指摘しました。北朝鮮市民の様子を見、彼らの広島のイメージを知り、広島での被爆の実相を伝えたほか、学生同士の交流についても触れました。日朝関係を信頼できるものにするためには、個人の信頼関係を国家間の信頼関係に発展させるべきだ、という学生同士の議論の結論に触れ、市民交流が国家間での信頼関係を築く手がかりとなることを述べました。

玉井委員は、核セキュリティにおいて想定される敵対者の変化と、核セキュリティの制度・技術の深化、そして人材育成の必要性について述べました。ロシアによるウクライナ侵略で示された、従来の非国家主体に加え国家も敵対者として念頭に置いた核セキュリティ強化の方向性や、原子力施設の内部脅威者への対応及び科学技術のキャッチアップ、そして核セキュリティ・ネットワーク強化のための人材育成や教育機関の裾野の拡張について指摘しました。

樋川委員は、2023年に核兵器が増加傾向に転じたことに触れた上で、2024年9月に開催される国連未来サミットへの期待を述べました。一方で、このサミットの成果文書としてまとめられる「未来のための協定(Pact for the Future)」の草案では、核軍縮に関する書き振りの弱さや包括性について懸念があることを指摘しました。また、冷戦終結から30年以上が経過し、これまでの核兵器の歴史を振り返り、西側諸国自身が自らの核政策について自省しながら考える必要性を提起しました。

最後に秋山委員は、核兵器不拡散条約(NPT)運用検討プロセス改革などについて報告しました。過去2回にわたり最終文書を採択できなかったことや、米中露の戦略関係の悪化、中東の情勢の緊迫化を受け、NPTでは厳しい議論が予想されることに触れ、①戦略的リスク、②新興技術、③核の透明性、④核の責任の問題など今重要だとされている課題をNPT運用検討プロセスの中で実効的な議論ができるかがNPT運用検討プロセスの意義を問う上で重要であることを指摘しました。そして運用検討会議に向けた準備委員会の活用方法などについて検討を行うことの必要性を提起しました。

続いて質疑応答が行われ、北朝鮮との対話の糸口に関する質問や、TPNWへの核保有国や日本などの対応、IAEAの枠組み内での国家による原子力施設への攻撃・破壊の議論、核セキュリティ教育の中核としての文化醸成、新興技術と核兵器の関連性、そして第2回NPT準備委員会の合意形成のために乗り越えるべき課題などについて、活発な議論が交わされました。