コラム

日本の核燃料サイクルとプルトニウム

2012-09-26
遠藤哲也(日本国際問題研究所特別研究員、元原子力委員会委員長代理)
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高濃縮ウランとプルトニウムは核兵器に直結する可能性のある機微な核物質であり、日本はIAEAの厳重な査察を受けるとともに、利用目的の無い余剰のプルトニウムは持たないとの方針を内外に明らかにしている。

平成15年8月5日の原子力委員会決定(筆者が原子力委員会委員長代理時代にドラフトしたもの)はその内容を具体的かつ厳しく規定している。

2011年末現在、日本が保有している核分裂性分離プルトニウムは次の通りである。(IAEAへ報告)

国内 6,316kg (六ヶ所再処理工場、JAEA東海再処理工場、核燃料加工場、研究所等にある)

国外 英 国  :11,616kg
   フランス :11,692kg

なお、海外におけるプルトニウムについては、英仏双方より高レベル核廃棄物と共に返還を求められている。

(核燃料サイクルについての日本政府の方針)
平成24年9月14日政府決定の「革新的エネルギー・環境戦略」の核燃料サイクル政策の関連部分は次の通り。なお、この新戦略は文書自体の閣議決定はされず、これを「踏まえて」との形となった。

・はじめに
 第一の柱は、「原発に依存しない社会の一日も早い実現」
 2030年代に原発稼動ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する。
・1、原発に依存しない社会の一日も早い実現
 ①核燃料サイクル政策
  ・青森県を放射性廃棄物の最終処分地にしないとの約束を厳守。引続き再処理事業に取り組みながら議論する。
  ・「もんじゅ」は年限を区切った研究計画を実行し、成果を確認の上、研究を終了する。

(プルトニウム保有量の今後の見通し)
(1)プルトニウムの供給見通し
上記のとおり、現在日本が保有するプルトニウムは国内保有と英仏で保管されているものをあわせて約30トン(核分裂性の分離プルトニウム)である。
今後の最大の供給源は、六ヶ所の再処理工場であり、再処理工場がフル操業に入ると、使用済燃料の年間処理量が800トンで、プルトニウムはその0.8~1%(うち核分裂性Puは60~70%)従って4-5トン前後が分離される。実際にはそこまでゆくとは思われないが、これは最高量である。

(2)プルトニウムの利用見通し
・軽水炉プルサーマル
当初は、2010年頃に16-18基の軽水炉でのプルサーマル使用を想定していたが、実際はそれをはるかに下回っている。(これまでMOX燃料が装荷されているのは三基のみである。)ちなみに軽水炉一基でのプルトニウム消費は、炉の大きさによるが年間0.3~0.4t位である。大間に建設中のフル・MOX炉は年間約1.1トンのプルトニウムを使用する。16-18基が実現すれば、年間5.5-6.5トンのプルトニウムが利用されることになる。

・高速炉
2006年のJAEAの報告書によれば,150万kWのナトリウム冷却高速増殖炉の場合,初装荷炉心に必要となる核分裂性物質量は約8.6tであった。

以上から推測するに、日本においてプルトニウム・バランスをとるには、まずは大間フル・MOX炉の稼動と従来型の軽水炉でのプルサーマルの使用が必要である。しかし、16-18基の軽水炉でのプルサーマルの実現が困難となると、海外を含めて日本が保有する全てのプルトニウムについてバランスをとることは非常に難しい。

プルトニウム・バランスをとるためには、相当数の高速炉の導入が必要ではなかろうか。そもそも、軽水炉のプルサーマルは決して効率の良いものではなく、本命である高速炉へのつなぎ的な存在であるからであり、再処理の本来の目的は高速炉用のプルトニウムのためである。

(新エネルギー戦略との関係)
再処理事業は継続する。原発ゼロを目指す。従って軽水炉プルサーマルも次第に縮減してゆくというのでは、生成されたプルトニウムを如何にして消費するのかというのが、頭に浮かぶ極めて素朴な疑問である。そもそも、プルトニウムの利用の途がはっきりしなければ、余剰プルトニウムは持たないとの大方針により再処理自身が出来なくなる。

新エネルギー戦略に対する米国の心配はいくつかあるが、最大の不安はこのプルトニウム・バランスにあると思われる。IAEAも同じようだ。それでは、どうすれば良いのか。

短期的には、大間の原子炉の建設と稼動、従来型軽水炉でのプルサーマルの推進(再稼動にあたっては、プルサーマル炉を優先させること、プルサーマル炉の稼動数を増やすこと)などが挙げられる。中・長期的には、高速炉の導入である。又、核不拡散への貢献の観点から再処理、高速炉事業の国際化も検討するに値しよう。国際化については、筆者が座長をつとめる私的な研究会でも検討中だが、核燃料サイクルを一国で完結させるという従来の方針を脱却してサイクルを国際化してはとの考え方である。例えば、六ヶ所再処理工場に多国間管理を導入するとか、海外の使用済み燃料を受け入れるとか、プルトニウム・バランスをグローバル化することである。

いずれにせよ、核燃サイクルについての日本の考え方を、米英仏、IAEAなどに十分に説明し、理解を得るよう努めなければならない。特に米国について言えば、このプルトニウム・バランスの問題は今後の日米原子力協定交渉の最大の論点であろう。
(了)